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ファミリーオフィス未来通信|老後は「収支」ではなく「バランスシート」で考える
老後を「考え直す」ための24の視点(第2回)
老後は「収支」ではなく「バランスシート」で考える
前回は、老後の不安の正体は「お金の不足」ではなく「見えていないこと」にある、というお話をしました。 では、何が見えていないのでしょうか。
多くの場合、それは「自分が何を持っていて、それがどの順番で役割を果たしていくのか」という全体像です。
この全体像を捉えるために必要なのが、老後を「収支(家計簿)」ではなく、「バランスシート(資産の健康診断書)」で考える視点です。
老後を「収支」で考えると、なぜ見誤るのか
老後について考えるとき、多くの人は無意識に次のような問いを立てています。 「毎月の生活費はいくらか?」 「年金で足りない分(赤字)はいくらか?」
これは、収入から支出を引く「現役時代の発想」です。 現役時代なら、この考え方で問題ありませんでした。
・収入が継続的に入る
・赤字が出ても「働いて補填する」という解決策がある
という前提があったからです。
老後は「流れ」ではなく「蓄え」の問題
しかし、老後に入ると前提が大きく変わります。
1.収入はほぼ固定される(年金など)
2.働いて立て直す「余地」が小さくなる
3.使える「時間」そのものが限られてくる
この状態では、「毎月いくら足りないか」という「フロー(流れ)」を追うよりも、「いま何をどれだけ持っていて、どう配分するか」という「ストック(蓄え)」の管理が重要になります。
老後のバランスシートを構成する「4つの資本」
老後の資産状況を整理する際、金額の多寡よりも「性質と役割」に注目してみましょう。
●公的年金 ― 代わりのきかない「終身保険」年金は「運用商品」ではなく、死ぬまで続く「保険」です。長生きするほど価値が高まるという、民間では代替できない特殊な性質を持ちます。「いつから受け取るか」は、老後後半の安心の厚みを決める戦略的な選択になります。
●人的資本 ― 期限付きの「将来の収入という資産」働ける力や経験、人脈はそれ自体が資産なのではなく、将来の収入を生むための土台です。働くことは、収入を得る手段であると同時に、「金融資産を急いで取り崩さずに済む時間」を稼いでくれる貴重な資産です。ただし、後回しにすると自然に失われる「期限付き」である点に注意が必要です。
●金融資産 ― 調整役としての「緩衝材」預金や投資信託などは、最も動かしやすい資産です。老後においては「いくら増えるか」以上に、急な出費や状況の変化に対して、どの程度の「余力(クッション)」として機能するかが重要になります。
●不動産 ― 判断力が価値を決める「重い資産」 自宅などの不動産は、金額は大きいものの、現金化には時間がかかります。「住み続けるのか」「貸すのか」「売るのか」。不動産は、持っていること自体よりも「いつ、どう扱うか」という出口の判断がその価値を左右します。
「時間軸」で見えてくる安心のカタチ
バランスシートで考えると、それぞれの資本が活躍する「出番」が見えてきます。
・元気なうちは「人的資本」と「金融資産」を活用する
・公的年金は、できるだけ「老後後半」の支えとして温存する
・不動産は、判断力が確かなうちに「方針」を決めておく
老後の不安とは、お金が足りないことよりも、「どの時期に、どの資産が、どんな役割を果たすのか」が見えていない状態を指すのかもしれません。
老後のお金は「増やす」から「支える」へ
現役時代、お金の役割は「将来のために増やすこと」でした。 しかし老後のステージでは、お金の役割は「これからの自分を支えること」に変わります。
・どれだけ増えるかより、どれだけ迷わず使えるか
・どれだけ高い評価かより、どれだけ失敗しにくいか
この視点の切り替えこそが、穏やかな老後への第一歩となります。
■次回予告
次回は、老後のバランスシートには載らない「見えない資産」と「見えない負債」についてお話しします。 数字には表れないけれど、実は老後の幸福度を最も左右する要素。それを見落とさないためのヒントをお届けします。
【執筆者紹介】
代田 秀雄(しろた ひでお)
辻・本郷 ファミリーオフィス株式会社 特別顧問
シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズ代表取締役社長
中央大学客員教授(国際公認投資アナリスト)
三菱UFJ信託銀行で年金・資産運用の実務に長年従事。 「オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)」などの普及にも携わり、成人の4人に1人がNISA口座を持つ時代をつくった第一人者の一人。
2025年、シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズを設立。