資産運用コラム「ファミリーオフィス未来通信」のご案内です。
今回は最近話題の「NISAの全世代化は生前贈与のチャンスか」についてご紹介します。
新NISAの全世代化の動き
2025年8月29日、金融庁は令和8(2026)年度の税制要望を公表しました。この要望には、NISAの全世代化が含まれています。これは、NISAの対象年齢を現行の18歳以上から引き下げるものです。メディアは、「つみたて投資枠」が18歳未満にも拡大される方針を報道しています。なお本件はまだ要望段階のものですから、最終決定は年末の税制大綱を待たなくてはなりません。
2024年から始まった新NISAでは、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」が設定されています。

「つみたて投資枠」が全世代に拡大されると、年間120万円、総額1,800万円の非課税枠を活用して、18歳未満でも長期資産運用が始められることになります。
これを契機に子や孫へ「暦年贈与」での生前贈与を検討される方も多いのではないでしょうか。なお、子や孫の年齢が18歳に近い場合は、18歳になってから相続時精算課税制度を活用した方がいい場合もあります。
暦年贈与と相続時精算課税制度
生前贈与をお得に実行できる仕組みは「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の二つがあります。
● 暦年贈与
暦年贈与は、毎年の暦年(1月1日〜12月31日)ごとに、1人につき110万円までは贈与税がかからずに財産を移せる制度です。110万円を超えた部分には、贈与税が課税されます。相続が始まったときには、相続開始前7年以内(2024年以降)に行った贈与は相続財産に持ち戻され、相続税の対象となります。なお3年超7年以内の贈与は合計100万円まで加算対象外になります。
● 相続時精算課税制度
一方、「相続時精算課税制度」は、60歳以上の親や祖父母から、18歳以上の子や孫などに対して財産を贈与する際に選択できる制度です。贈与時には、最大2,500万円まで贈与税がかかりません(その年の贈与額に対し110万円の基礎控除があります)。また贈与した財産は相続が発生した時に「贈与時の価額」で相続財産に合算され、相続税で精算されますが、贈与後に資産が値上がりしても、その増加分は相続税の対象になりません。
損して得とる「相続時精算課税制度」
それでは18歳以上の子や孫などに1,800万円のNISAの資金を生前贈与する場合、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」のどちらが有利になるでしょうか。
● 暦年贈与の場合
毎年年初に110万円を贈与し、同時にNISAの成長投資枠で110万円をNISA一番人気の「オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式オール・カントリー)」に一括投資をします(なお成長投資枠の非課税保有限度額が1,200万円なので、これを超える分についてはつみたて投資枠を利用します)。毎年、110万円ずつの贈与になるので、1,800万円を贈与するのに17年(1年目から16年目に110万円ずつ、17年目に40万円)かかります。
● 相続時精算課税制度の場合
一括で1,800万円を生前贈与します。NISAの年間投資枠は360万円で、つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円です。つみたて投資枠では、毎月10万円ずつ「オルカン」に投資し、成長投資枠では年初に240万円を一括で「オルカン」に投資します。1,800万円を一括で生前贈与し、NISAで非課税運用できない部分は、課税口座で「オルカン」に投資し、徐々にNISA口座に資金を移していくことにします。
● 運用結果の比較
「オルカン」が連動しているインデックスのMSCI-ACWI(配当込み・ドルベース)の過去20年の投資利回りは現在年率8%台(注1)です。仮に「オルカン」が年率5%で運用できたとすると、それぞれの運用資産は次のようになります。
(資金移動)

(運用残高推移:運用利回り5%)

(課税口座から元本ベースで全額をNISA口座に資金移動した後も、課税口座に運用残高が残るのは、運用益分です。)
暦年贈与の場合: 20年後には運用資産が3,370万円になります。
相続時精算課税制度の場合: 20年後には運用資産が4,606万円になります。

20年後に相続が発生した場合、暦年贈与では7年以内の贈与が14年目、15年目、16年目の110万円と17年目の40万円の370万円から加算対象とならない100万円を差し引いた270万円が相続財産に加算されます。一方、相続時精算課税制度は1,800万円から110万円を控除した1,690万円が相続財産に加算されます。
20年後の運用残高は、相続時精算課税制度の方が1,236万円も多くなっていますから、一般的なケースでは1,690万円を加算した相続税が1,200万円を超えることはなく、暦年贈与で資産移転をする場合よりも、相続時精算課税制度の方が受贈者の手取りの方が大きくなると考えられます。これが「損して得とる」ということの所以です。
また運用利回りが7%であれば、相続時精算課税制度の方が暦年贈与よりも運用残高が2,241万円大きくなり、明らかに手取りは相続時精算課税制度の方が大きくなります。
なお運用利回りが3%であった場合は、相続時精算課税制度の運用残高の方が573万円大きくなります。半面、相続時精算課税制度の1,690万円を加算した相続税と、暦年贈与で持ち戻される分を加算した相続税とを比較すると、相続時精算課税制度の方が大きくなり、状況によって最終的な手取りが有利になるのがどちらであるかは変わってきます。
● 生前贈与開始後10年で相続が発生してしまう場合
仮に暦年贈与を利用して生前贈与開始後10年で相続が発生してしまった場合、当初の計画の1,800万の資金のうち1,100万円しか贈与できておらず、また7年分の770万円から100万円を差し引いた670万円が相続財産に加算されます。10年で相続が発生する場合も、ほとんどのケースで、早めに贈与して運用を開始できる相続時精算課税制度の方が有利になるように思います。
なお個々の事例については担当の税理士にご相談ください。
(注1)MSCI-ACWI(配当込み・ドルベース)の20年投資利回りは、指数算出開始(1987年)の20年後(2007年)から直近までおおむね年率4%から9%の間を推移。
(注2)暦年贈与した110万円を年初に全額運用開始した場合。
【執筆者紹介】
代田 秀雄(しろた ひでお)
辻・本郷 ファミリーオフィス株式会社 特別顧問
シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズ代表取締役社長
中央大学客員教授(国際公認投資アナリスト)
三菱UFJ信託銀行で年金・資産運用の実務に長年従事。 「オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)」などの普及にも携わり、成人の4人に1人がNISA口座を持つ時代をつくった第一人者の一人。
2025年、シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズを設立。